近代都市はインターネット都市に転換し、そしてシンギュラリティを迎える 

試論「ICT革命による都市転換論」

概要

1.ICT(情報通信技術)の指数関数的成長を前にして
ICTは今後10年~20年に指数関数的成長が確実視されている。その後2045年頃にシンギュラリティ(技術的特異点)を迎え、人間よりはるかに知能の高い汎用型人工知能が誕生すると推測されている。このような技術発展パースペクティブの中で、多様なICTイノベーションと生活・社会変革が現実化すると予測されている。例えば、テレワークによる在宅勤務の拡大・発展、EC(電子商取引)によるホームショッピングの飛躍的拡大(リアル店舗の縮小)、リアルを超えるバーチャルリアリティVR)による対人接触・交流、会議・イベント参加等の拡大(外出率の低下→交通不要化)、人工知能による労働短縮・置換(失職)の拡大(労働者の在宅化)、モノを制御するIOT(モノのインターネット)化による遠隔操業(自宅勤務)等、都市・社会変化を促す多様なICT革新が想定されている。VRやAI等のICT技術は、現在更なる高度化に向けて開発進行中であるが、今後10年での目標開発レベルの実現は現在までの技術改革の進捗から見て、ほぼ確実視されている。これら多くの社会変革が、同時並行的に(多少のタイムラグはあるが)、都市で現実化されれば、都市に大きな変革・転換が生じることは否定できない。特に、これらのICTデバイスの相乗効果を考慮すれば、都市におけるICT革命を加速化させると考えるのが妥当である。例えば、VRバーチャルリアリティ)の進化がテレワーク、EC、SNS、遠隔操作等の一層の利用拡大を促進するように。
このようなICTの指数関数的発展を前にして、シナリオ(仮説)“近代都市はインターネット都市に転換し、そしてシンギュラリティを迎える”を設定して、ICT革命による都市の変革を考察・予測した。


2.都市にとってのシンギュラリティ
都市にとってのシンギュラリティとは、汎用AIによる自律的な完全自動化によって、「雇用の都市」である近代都市を「雇用のない都市」に転換することであると定義することが出来る。雇用は近代都市の存立基盤であるからである(人は雇用のために都市に集まった)。「労働からの解放」は近代都市、或いは都市そのものの終焉であると云えよう。 

3.インターネット都市の役割
シンギュラリティ(自律完全自動化)を迎えるためには、①.都市は分散型に転換されていなければならない(近代都市の中央集権型システムの自動化ではない)。②.頭脳である汎用型AIを据え付けるには都市の手足としての自動システム(センサーとアクチュエータ)が開発・装備されていなければならない。このように、インターネットを基盤としたインターネット都市(Internet Oriented City)の役割は、シンギュラリティを迎えるために、都市を分散型に転換し、都市の自動システムを構築することであると定義づけられる。


4.近代都市の分散型への転換
時空的距離の制約のため都心に「集積の利益」を求めて集まる都市機能は、インターネットによる「距離の克服」により、都心立地を必要としなくなり、都心は衰退する。即ち、今後10~20年で爆発的な発展、即ち指数関数的発展が起きると予測されているIT発展(インターネット、テレワーク、EC、AI、VR、IOT、SNS等)は、都心部にある雇用(特にオフィスワーク)を含めた都市機能を、ネットを通して、住宅地の個人・家庭に分散し(「都市の在宅化」と呼ぶ)、これにより、都心は弱体化し(交通機能も低下)、都心として成立が難くなる。これにより、都心として求心力を失い、これが更に都心離れ(インターネット化)を促進するという都心衰退のメカニズムに陥る。
一方、住宅地では、「都市の在宅化」によりネットを利用する個人・家庭を経済主体とした自律分散型統治の経済ゾーンが発展する。「都市の在宅化」で、家庭は職住一体となるが、このような職住一体は産業革命以前の家庭でなされていたもので、歴史的には、新しいものではなく、原点回帰とも考えられる。

5.都心を中心としたモノの生産・物流基地
ECの爆発的拡大・発達ととも生産・物流システムが抜本的に変革される。即ち、衰退する都心部(最も道路交通条件のよい)には、増大する膨大な都市内貨物需要(多頻度小口輸送)に対処するため、物流基地が形成される。この物流基地には、物流と連携した生産機能(工場)が集積する(オンデマンド生産と流通)。また、物流基地から、居住地域への貨物輸送システムが整備される。このようにモノの生産‐輸送‐消費の自動連携システムが構築される。

6.インターネット都市で発達する新しい形のコミュニティ
インターネット都市にユニークな居住コミュニティが成長し、インターネット都市はこれらのコミュニティを単位として形成される。即ち、住宅地では、テレワークを始めとした職住一体化等の「都市の在宅化」(父親・夫、或いは勤務者の在宅化・地域化)により家族内とコミュニティ内の交流の活性化が図られ、新しい地域コミュニティが発達する。またテレワークによる移住/移転の自由化の促進により、移住によって人々が好きな所に集まり住む目的追求型(文化・芸術等のテーマ型)コミュニティが発達する。更に、インフラについてもコミュニティ単位で運営する自律分散型(人口減少社会に対応)に転換し、コミュニティ単位での生活改善を図るスマート・コミュニティづくりのためのコミュニティが発達する。

7.人口減少社会への対応
人口減少社会では、各コミュニティが、それぞれ独自で、コミュニティの魅力を維持・向上(上記のように地域交流の活性化、文化等の振興、生活の質QOL改善のスマート化等の努力)し、これにより人々を引き付け、人口規模の維持を図る。より魅力のあるコミュニティが生き残り、魅力のないコミュニティが消滅することで、社会の人口減少に対応した市街地の縮小・再編成が図られる。

8.シンギュラリティを迎える
(人間に代わる)汎用型AIにより、インターネット都市で形成された、個人・家庭のネットワーク化した自律的統治システムとモノの生産・輸送・消費の一貫システムが完全自動化され、労働からの解放が実現する。労働から解放された余暇生活は、上記の魅力あるコミュニティで過ごすことになる。

9.将来都市形態

ここでは、ICTによる都市転換を明確に理解するため、都市の分散型への移行を極限化させて描いた。実際は、今後のICTの使い方・普及や、対象都市の特性・発展段階等により、多様な将来都市形態が生まれると推測される。例えば、集中型と分散型の併存型(過渡期)、或いは、大都市型、中核都市型、地方都市型などである。或いは、分散して無定形の都市形態が生まれるかもしれない。今後の研究が俟たれる。